十条のバーでカレーとウイスキーを嗜む!Kitchen&Barひ

ひ店内01

2019年もまた、十条ではカレーイベントが開催された。数あるお店の中で人気のカレーが「バーひ」のおつまみカレーである。過去優勝経験もあるそのお店の実力のほどを、ひのママのインタビューからご紹介する。

以下は過去に他ブログにて紹介した記事を再構成したものである。

十条ゴールデン街の食事とウイスキーを嗜むバー「ひ」

十条の街にネオンの灯りがともる頃、とある路地の奥で小さなバーがオープンする。
“十条のゴールデン街”と呼ばれる一角でひっそりと営まれるKitchen&Bar「ひ」だ。

扉をあけると、心にすっとしみわたるような涼やかな声の“ひぃママ”が迎えてくれる。彼女はもともとOLをしており、リーマンショックの影響をうけ失業。一年半以上、無職の生活をつづけたのち、全くの素人ながらBarをオープン。不況のあらなみを乗りこえ、十条に根づかせた。

女一匹、十条にバーをつくる

ショウジ(この後「ショ」):「さっそくですが、前職は何をされていたんでしょう?」

ひぃママ(この後、「ひ」):「経営コンサルタントの事務所で働いてたんですよ。ネット関連のマーケティングなんかもしていたんです」

ショ:「飲食店とは全く関係ないお仕事だったわけですね」

ひ:「そうなんです。でそのあとのリーマンショックの影響をうけて無職になってしまったんだけど、それまでずっと忙しかったのもあったので、一年ほどゆっくり英気を養うことにしたんです。普段会えない遠方の友達に連絡をとったり、旅行に行ったり、周囲からは大丈夫なの? と心配されても、何とかなるでしょ、と気にしていませんでした。何より、景気の底で動くことよりも、もう少し上向きになる日を待つ方が有意義だと思ったんです。でも、結局、時間だけが過ぎていき、景気はよくなる気配はなくて…。それで、景気の悪い日本がダメなら、しばらく海外で働くのはどうかと考え、海外派遣の仕事を探して応募したんですが、あえなく撃沈。本腰入れて就職活動をするしかなくなったわけです」

ショ:「実際に仕事を探しはじめて、どうでした?」

ひ:「これがものすごく厳しくて。転職経験のないわたしはネットと相談しながら、毎日、履歴書を書いて、毎日のように履歴書が送り返されてくる日々に愕然としてました。目立った資格も持っていなかったし、それまでの経歴だけで入れてくれる会社もなかったからです。そして、一から学ぶには遅すぎる年齢がわたしを苦しめたことは間違いありません。どこにもいけず宙ぶらりんのような状態になって、生活も苦しくなってきたから、アルバイトをひとまずはじめようと思ったんだけど、たった週3日ほどのアルバイトですら雇ってもらえなくて。どうやって生活していけばいいのか…、目の前が真っ暗になったのをおぼえてます」

ショ:「うーん、想像するだけでも、気分が落ちこんできました」

ひ:「求人の確認はネットでもできる作業だったんだけど、気分転換も兼ねてハローワークに足を運んでいたんですね。それである日、ハローワークで基金訓練コースというものがあるのを知ったんです。失業保険に加入していなくても、失業保険が切れていても手当てをもらいながら、職業訓練が受けられる仕組みになっていたので、これはいいぞと」

ショ:「職業訓練に通われる間、ブログ でお弁当の写真を毎日アップされてましたよね?」

ひ:「そう、気合入れて(笑)。仕事をしていたとき、ほぼ毎日お弁当を作っていたんですが、一年半以上無職で過ごしていて、お弁当を作ることがなくなったんですね。それが寂しくて。食事や生活リズムも少しずつ狂っていたから、職業訓練へ通うことが決まったとき、お弁当を作る喜びも復活したようでうれしかったんです」

ショ:「そのブログによると、職業訓練に通いながら突然、お店をはじめるわけですよね。そもそもなぜ十条だったんですか?」

ひ:「職業訓練に通うことが決まって、生活を立て直す気持ちが出てきたのかな。前に住んでいた家が割と家賃が高くて。やっぱり生活費から切り詰めないといけないなと思うようになったのね。学生のときから十条に長く住んでいたので、家賃が安いことも知ってたし、何より物価が安い。土地勘もあるので引っ越そうと思ったの。つまり自分のアパートを探すつもりだったのね。それでまわっているときに店舗物件を見つけて中を見せてもらったの。それでお店を見た瞬間『やってみよう』って」

ショ:「ずいぶん突然だったんですね」

ひ:「そうね。見せてもらったときは、前の方が夜逃げ同然で出られたあとみたいで、変な異臭が漂っている状態だったの。でも、この店舗の広さだったら一人でもできるんじゃないかと思ったのね。水まわりを見ても使える状態だったから、修繕費用が少なくてすむかな?なんて思ったり。なんとなく惹かれながら帰ったんですね。でもね、ホントはもう物件を見たときに8割方決めてたんです。ず~っと働いてなかったから、とにかく仕事がしたくて。一生懸命働ける場所が欲しかったんです。就職活動をつづけても仕事が見つかるかどうかもわからないし、それなら自分で仕事をする場を作ってもいいんじゃないかと、そう思ったのね。それで『借ります』って、不動産屋さんに連絡して」

ショ:「ぼくはフリーランスなんで、仕事がないときの気持ちは、すごくよくわかります。でも職業訓練もはじめていたんですよね。二足のわらじは大変じゃなかったですか?」

ひ:「職業訓練に通いはじめて、割と早い時期にお店を契約したのできつかったです。お店を居抜きで使うことは予算上決まってたので、職業訓練に通いながら、夜はお店の清掃に通い、このままでできる商売を考えたんです。実は、お店を契約しても何をやるかは決めていなかったんです」

ショ:「え? そうなんですか?!」

ひ:「いろいろ考えてBARということにしたんですが、それはわたしがやりたいような飲食業ではなくて…。できれば、食事をメインで出すお店にしたかったんです。というのも、お勤めしていたときから料理が好きだったし、夜お酒を売るお商売に抵抗があったから。それと同時に自分のお料理ってどれくらい評価してもらえるのかな?と思ってたんですね。仕事がずっと好きだったけど煮詰まっていた頃があって、その頃、たまたまネットで見つけた『家庭料理技能検定』に興味を持って、少しずつ勉強していって、開業を決めたときには家庭料理技能検定の1級の筆記合格まですませていたんです。(※ひぃママは、開業した2010年の10月に1級の実技試験も合格。成績優秀者として表彰されています)」

ショ:「すごい!」

ひ:「一般人なら結構やるじゃん、というレベルだと思うんですね。だから、お店でお料理を出してみたいと思ったの。少しBARらしからぬメニューが見え隠れするのは、そんなところからでしょうかね。」

ショ:「料理がおいしいのはそういう経緯があったからなんですね。なっとくです」

ひ:「『家庭料理技能検定』に出会ってから、料理がもっと好きになり、将来的には料理教室をしたり、飲食店をするのもいいのかなぁって、実はずっと思ってたんです。だからわたしの中ではそれほど唐突な転身でもなかったんですよ」

<シックで落ち着いた雰囲気の店内>

ショ:「でもお店ってつぶれることもあるわけじゃないですか? 怖くなかったんですか?」

ひ:「飲食店ってつぶれるものだと知らなかったのよ」

ショ:「え、知らなかった?!」

ひ:「そんなに簡単につぶれてるものだと思わなかったのよ。はじめてみてびっくりしたんですけど、バタバタつぶれてますよね。実はわたし、お店をはじめるにあたって、知っていることって何一つなかったの。完全に素人。改装の方法から、お店を運営するノウハウを全部ネットで調べて…。というか知らないと開業できないことがあることまで考える余裕がなかったんですよね。何も考えないで動いて、困ったときに考えて…、とにかく目の前にあることをクリアしていくので手いっぱいで、逆にそれで余計なことを考えずにすんだのがよかったのかもね(笑)」

ひ店内02

<お店をスタートしたときの洋酒のラインナップはこの3本だった>

ショ:「見切り発車でお店をスタートですか…、すごい勇気ですね」

ひ:「そうよね、でも何とかなるものなの。運がよかったのが、お店をはじめるときに頼んだ業者さんが知り合いのお店に連れて行ってくれて。その日たまたま相席したお客さまが3人。まだお店の名前もなくオープンの日も決まっていなかったわたしの店に、オープンと同時に来店してくれたんですよ。その方たちから、地元のお客さんへとじんわり広がっていって。あと、この辺りをよく知ってらっしゃる方にご挨拶に行ったりと、地元にもいろいろ筋は通したんですよ。そうするとお客さんを紹介してくださったり、宣伝してくれたり。とてもよくしてくれたんですね」

ショ:「はじめから地元になじむことができたわけですね」

ひ:「少しずつですけどね。でも、あの日あのお店に行ってなかったら作れなかったご縁に今も感謝してます。そういうつながりみたいなものを大切した方がいいと思えましたから。できあがっているコミュニティに飛び込むのは勇気がいったけど、おかげさまで、開店してからしばらくはお客さんゼロという状態はあまりなかったんです。はじめの半年くらいはとても順調な滑り出しだったわね。で年が変わって2011年。3月にあの大震災があって…」

ショ:「お客さんが減ったんですか?」

ひ:「減ったなんでもんじゃなくて。もう激減。それももう1か月とか2か月じゃないの。その後、一年間丸々お客さまが激減。悲惨だったんですよ。ちょうどお店をはじめて一年経つか経たないかぐらいのときで、お客さんが定着する前に震災になっちゃったんですね。しかもわたしもお店をはじめたばかりで経験がないので、震災の影響なのか、景気の影響なのか、お店が悪いのか、原因がわからなくて、ここで悶々としてたんです」

ショ:「はい…」

ひ:「でもそれを打開してくれたのがツイッターなの」

ショ:「ツイッターですか!?」

ひ:「実はオープンしたときから、SNSでの集客はしていたんです。無料だし、何より、ネットで開業知識を集めたわたしには一番向いている広告手段だと思って。その中にはツイッターも含まれていたんですが、同時にいろいろ手を出して効果が早かったものから力を入れたので、ツイッターは使い方もつぶやく意味も面白味もつかめないまま、ほぼ放置状態がつづいていたんです。だけど、効果のあったSNSが年明けから一気に煮詰まり、手詰まり。そんなとき、お客さまがツイッターもっと頑張った方がいいよと言ってくれて。あんまり効果を期待しないまま、でも、すがるような思いでツイッターを使ってみたんです。するとフォロワーが200人を超えた頃から、お店に興味を持ってくださる方が急に増えたんです」

ショ:「ふむふむ」

ひ:「ツイッターで十条のお店をやっている方たちとつながれたのも大きいかも。お店同士が仲良くなると、お互いのお客さまが行き来することも出てきます。そのあとそのお店のフォロワーの人たちも噂を聞きつけてフォローしてくれたり、実際にやってきてくれるようになったんです。すると次々につながっていって、そこからお客さんが増えたり。みなさんみたいに十条以外からもお客さんが来てくれるようになったんです。ツイッターで、地元に住んでいる人から、その友人へとお客さんの範囲が一気に広がったって感じですね」

ショ:「大企業がツイッターによる集客で苦労してますけど、こんなところに成功事例があったわけですね(笑)」

ひ:「ツイッターって、一見するとハンドルネームだから誰がやってるかわからないじゃない。でも、地元のつながりがあると顔がわかるから安心でしょ。それにこちらからも、十条に興味有る人、住んでいる人、職場がある人、赤羽や王子など近隣にいる人、趣味が合う人、ツイートを見ればわかるので、狙いを定めてフォローできるのも魅力なんですよね」

ショ:「ぼくたちからしても、お店の人がつぶやいてるのを見ると、ちょっとした有名人みたいな感覚になってくるんですよね。どんな人か興味があるからお店に行ってみようかって」

ひ:「有名人ではないけど(笑)。でもそうやってお客さんが来てくださるツールを見つけられたのがよかったのね。おかげさまで今年はだいぶ回復しています」

Twitterアカウント: @hii_mama

ショ:「さっきから言おうと思ってたんですけど、ひぃママの声がとても素敵なんです。十条に住んでいるライターの田仲氏の奥さんも言ってたんですけど、ママさんのお店にいるとすごく落ち着くんだそうです。ママさんのすーっといい声が聞こえてきて、その芯にはいろんな経験があったうえでの落ち着きがあって、ぼくもさっきからインタビューしてるのに、すごく落ち着いてしまってるんです。そんなママさん自身の人柄もこのお店の、すごく大きな魅力のなんでしょうね」

ひ:「ありがとう(笑)。」

おつまみカレーをはじめとした料理へのこだわり

ひぃママは、バーをはじめる前から「家庭料理技能検定」の資格をとるなど、料理の味にはとことんこだわっている。十条のさまざまな店舗が参加したカレーメニューの味比べ企画でも人気を博すなど、その料理の腕前は一流と言っていい。「ひ」の料理メニューについてこだわりを聞いた。

ショウジ(この後「ショ」):「これが話題の『おつまみカレー』ですね。なんだか小さな器に入っていて見た目もおしゃれですね。量もちょうどいいし。(食べてみて)ん、おいしい! 口に入れるとチキンがほろっと崩れて、うまみがひろがって…。スパイシーなのもいいですね。ホテルで食べるようなちょっと洋風なカレーかも。これ大好きです!」

ひカレー<ツイッターでも話題の「おつまみカレー」 500円>

ひぃママ(この後、「ひ」):「ありがとう(笑)」

ショ:「そういえば、おつまみのカレーって考えたらあまり無いですよね。どうして作られたんですか?」

ひ:「そもそもうちにはカレーってメニューがあって常連さんにはけっこう人気だったんだけど、BARで軽いモノは食べてくれても食事をしっかりする方はあまりいなかったの。カレーは保存がラクだけどご飯は毎回用意しなくちゃいけないから、売れない日は白飯が冷凍庫に溜まってしまうこともあったんです。それならと試食の形でお客さまに小さいサイズで出すことをはじめたんですね。『おいしい!』という言葉が聞けて、そのサイズですっかり満足の方も多かったので、味だけでなく量も考え直して、小さいサイズのカレーという意味で『おつまみカレー』というネーミングにしたんです」

ショ:「なるほど」

ひ:「カレーは仕込みが大変だけど、お客さまに出すときの手間は大したことがなく、パスタなんかと違って小さく売ることに負担が少なかったんです。それに、量が多いとそれだけでお腹いっぱいになっちゃうじゃない? お腹いっぱいだとお酒もすすみませんから(笑)」

ショ:「女性にもうれしいサイズですよね」

ひ:「女性のお客さまにはパンやクラッカーを添えて出すときもあるんですけど、けっこう評判なんですよ。以前、深夜2時頃、若い女性のお客さまが、「ママ、カレー…」とちょっと酔っ払って入ってきたことがあったんですけど、あのときはなんだかうれしかったですね」

ショ:「『十条のカレー戦争 』でも話題になってましたよね?」

ひ:「実は、十条カレー戦争はうちのお店ではじまったんです(笑)」

ショ:「え、そうなんですか!?」

ひ:「わたしの店には土曜日の夜、十条の飲食店のマスターが遊びに来るんですね。ワイワイとそれぞれのお店のカレー支持者を交えつつ、盛り上がって行き、お店のカウンターだけでしていた話をツイッター上でも膨らませていったわけです。すると、他店の宣戦布告がツイッター上に現れるということになり、小さなお祭り騒ぎになっていったの(笑)」

ショ:「なるほど。『ひ』は、“カレー戦争の勃発の地”でもあるわけですね(笑)。それにしても、ここまでおいしいとデカいサイズで食べたいです!」

※十条カレーイベントについてはこちら

ひ:「うふふ。最近、よく『裏メニューにしてほしい』とか言われるんだけど、もともと大きいのからはじまっているから、なんだか本末転倒でおかしくて(笑)。」

ひ:「ありがとう。このポテトサラダもフレンチドレッシングのようなものも添えられるんだけど、やっぱり家庭的な味を好む方が多いので、オーソドックスにしているのよ」

ショ:「じゃがいもの味がしっかりして、これまた舌が喜びますね! ポテサラ好きって多いと思うんですけど、通な人たちも安心して食べられるなつかしい味ですね」

ひ:「そうね。わたし自身がプロの料理人じゃなくて、家庭料理の腕をみがくための『家庭料理技能検定』からいろんなことを学んだタイプだから、そういう味になるのかもしれないわね。自分でも、毎日食べられる家庭の味からあまりはみ出ないように気をつけてるんです」

ショ:「もう全部が全部、ホッとするっていうか落ち着くっていうか。バーって言うとはじめての人には敷居が高い感じがするんですけど、ひぃママのバーに来るとみんなすごくリラックスしてる感じがありますよね。いろいろママに相談したくなります(笑)」

ひ:「いいわよ、人生相談、いつでも答えるわよ」

ショ:「あ、それ今からぜひ! ぼく、将来の仕事が不安で、この先どうすればいいか悩んでまして……」

ひ外観

――こんなふうに、Kitchen&Bar「ひ」の夜は更けていく。

もしあなたが何か人生につまずいたなら…、十条のゴールデン界と呼ばれる一角で、夜毎くりひろげられる宴に飛び込んでみるといい。

ひぃママが投げてくれる言葉に、心のわだかまりがゆるりと解けているのを感じることだろう。ちなみに、酒の値段も一般の相場より数百円は安く、カクテルも頼めて種類も豊富だ。

我々はその日、おおいにゆるんだ。おおいにゆるみきった末に、おおいなる二日酔いを体感したが…、それはまた別の物語。

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