【インタビュー】気軽にごちそう洋食を。吉良亭

洋食、それは甘美な響き…。ハンバーグやオムライスやシチューは子供のころからそして大人になった今でも好きすぎるメニューだろう、みんな。ここで反論されても話は続けさせていただく。自宅でも親がつくってくれたかもしれないが、一人暮らしをはじめたりすると、その街には気のおけない洋食屋がほしくなる。自分はそうだった。この洋食屋があってよかった!おそらく近所の人間がそう思う店。それが十条の吉良亭なのだ。安く外食をすることはできる。でもどうせ外食するなら家のものではない、自分にはつくれるはずもない美味いものを食べたい。その願いを叶えてくれるお店なのである。
これは、十条研究会が吉良亭のマスターに話をうかがえた貴重な記録である。※以前のブログより転載しています

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十条研究会(以降、十):「本日はよろしくお願いします。早速ですが、マスターが料理の世界を志したきっかけを教えて下さい」

吉良亭マスター(以降、吉):「地元の学校を出たときにはもう『洋食のコックになるぞ』と決めていました。それで上京して、最初のころは結婚式場の厨房で働いていました。そのうち、だんだんと自分の店を持ちたいなって思いはじめてね。それが今のお店を始めることになったきっかけです」

十:「卒業してすぐ料理の修行に入られたんですね」

吉:「ええ。そのときの料理長には、とても良くしてもらいました。料理長が別のレストランに移るときに『一緒についてくか?』と声をかけてくれて。それはもう『ハイ!』と即答ですよ。昔は料理長が親方になり、若いコックは親方について何軒もレストランを回り修行する、ということがよくあったんです。厨房ではいろいろな作業をまかせてもらって、たくさんのことを学ぶことができました。その経験があってこその今ですね。ああそれと、昔は洋食といえば、フランス語だったんですよ。調理方法やオーダーなんかも、全部フランス語で指示が出る。最初はどんな意味か教えてくれるんだけど、何度も聞き返していると『コラッ!』ってなってね。小さなフランス語の辞書をポケットに入れて、言葉を覚えながら厨房に立ったものです」

十:「十条に今のお店を構えたのはいつ頃ですか?」

吉:「今の場所に店をオープンしてから、もう二十年になります。洋食というと、若い人ばかりが食べに来るイメージがあるでしょ? でも、ご近所のお年を召した方もよくいらしてくださるんです。オープンした当時は、ラップにお新香を包んで持って来る方もいらっしゃいました(笑)。『和食も出して』というリクエストもあったけれど、やっぱり洋食屋だからね。それをやったら意味がない。開店してからずっと“美味しい洋食をお出しする”その一心でやっています」

十:「本格的な洋食をとてもリーズナブルなお値段でいただけるので、毎回感動しています」

吉:「都心で食べたら千円以上するようなものを、安い値段で食べられる店があればいい。料理の値段をつけるときは、いつもそう思っています。今でもほぼ二十年前と同じ値段なんですよ」

十:「しかもボリュームがすごい! あの…恐縮なんですが、あんなにお安くて大丈夫なんでしょうか」

吉:「最初はちゃんと原価計算もしているんですけどね、作っているとだんだん量が増えてくる(笑)。冗談はさておき、きっちり原価ばかり追求していると、やっぱり美味しいものは作れません。もちろんすべて一流レストランが仕入れるような高級食材ばかりを使うわけにもいかないので、工夫はしています。例えばスーパーで手に入る材料でも、マネのできない料理を作る。それが腕の見せどころだと思っています」


十:「先日『牛肉のはちみつ赤ワインソース煮込』をいただきました。吉良亭さんの看板メニューのひとつとうかがいましたが」

吉:「お店の名物を作りたい、と思って始めました。せっかくなら、フレンチの流れを汲んだメニューがいいだろうと。本来なら5時間かけて煮込まなければできない料理ですが、千円でお出しするための努力として、圧力鍋を使うなど独自の方法をとっています」


十:「魚を使ったメニューも豊富ですよね」

吉:「宇和島で兄が真珠の養殖をやっていまして、近くの海でとれたタイやシマアジなどの魚をたまに送ってくれるんです。また、知り合いの方の実家が千葉の漁師さんで、そちらからも新鮮な魚をおすそ分けいただきます」

十:「そういえば以前、Kitchen&Bar『ひ』のママから、吉良亭さんから新鮮な魚をおすそ分けいただくことがあるとうかがいました」

吉:「みんなが仲良しで、美味しいものを作ろうねということです。みんな協力しあって、いい感じになってきていると思いますよ」

十:「Twitterでも吉良亭さんを頻繁にお見かけします」

吉:「Twitterを始めてから、いろいろと良い方向に変わりました。最初はどうしていいか、何もわからなかったけどね(笑)。パソコンを始めたのもここ数年のことです。それでも『うまいもんや』さんが丁寧に教えてくれたり、つぶやくとすぐに仲通りさんがリツイートしてくれたり。みんな懇意にしてくれて、とても助かりました。ここの『串一』さんともTwitterを通じて仲良くなれたし。Kitchen&Bar『ひ』で知り合った方なんか、すぐにお店に来てくれたりしてね。みんなと一気に深く仲良くなれるツールなんだから、すごいよ。でも、みんな使い方うまいよね」

十:「本当に、みなさんとても有効にTwitterを活用しているなあと驚かされます」

吉:「毎日お店を開けるのが楽しみになりますよ。Twitterを見た人が、誰か来るかもしれない。そう思うとモチベーションも上がるというものです」

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「フレンチでもない、コテコテの洋食でもない。その中間を行きたい」と語ってくれたマスター。十条の重鎮ともいうべき洋食屋さんのマスターは、常に「料理で人を驚かせたい」という情熱が、優しく語る言葉の端々に見え隠れする魅力的な方だった。そしてそんなマスターを横で静かに見守る奥さんも素敵だ。

十条で味わう洋食は、どこか懐かしく、それでいて新しい。そんな一皿を、これからも楽しみにして通おうと思う。そして今度は、仲間を連れてワインで乾杯!私のおすすめは文頭にある看板メニュー『牛肉のはちみつ赤ワインソース煮込』をぜひ食べてみてほしい。

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